タイムカプセル。
「杏、貴方庭で何してるの?」
振り返ると不審な物を見た時に見せる表情をしている母親。
「見たら分かるでしよ?掘ってるの」
「なんで?何か埋めるの?」
「違うよ、埋めた物を取り出すために掘ってるの」
「何か埋めてたの?」
「…高校の卒業式の日にね、埋めたの」
「高校って随分前ね…10年ぶり?何埋めたの?」
疑問ばかり投げ掛けられて面倒くさいなぁ…。
視線を掘る土に戻して母親には見えない所で小さな溜息を吐いた。
「………その時に見たくなかったもの」
「なにそれ」
「お母さんには分からないよ、ほらほらあっち行ってよ」
「もう、可愛くないわね〜。庭ぐちゃぐちゃにしないでよ?」
「うん」
お母さんが部屋に戻って行くのを確認すると、土を掘るのを再開する。
それにしても、
「こんなに深く掘った所に埋めたっけ?」
もう10年も経ってしまってどれくらい掘ったかなんて覚えてない。
況してや、あんな泣きながら夕方のオレンジ色の空の下で埋めたんだ、記憶があやふやだ。