俺様外科医と偽装結婚いたします
「悪いな。大丈夫じゃない。だからお前が遠慮してくれ。走る場所ならどこにでもある」
川沿いのこの場所も気に入っている。時間も走るルートも、どうしても変えたくない。
けどこのままでは、私がここから追い出されてしまいそう。
そんな予感に身体を震わせながら、私は必死に考えた。
「……そうだ! 私に一ヶ月くらいの猶予期間を下さい」
「猶予?」
「その間また同じように、あなたに不快な思いをさせるようなことがあったら、私が消えます……ね?」
彼は私からの提案に対して考えを巡らせている。
なんて答えるだろうかとハラハラしながら伏し目がちな彼をじっと見つめていたけれど……私は急に戸惑いを覚えて彼から目を逸らし、そしてまた視線を戻した。
癖のない黒髪、色白な肌はとても滑らかそうで、目はくっきりと二重、すっと通った鼻筋。よく見たら、ものすごく整った顔をしている。
格好良い。咄嗟にそう思ってしまったことが悔しくて顔をしかめていると、彼が二度ほど頷いた。
「分かった。その条件なら飲んでやる」
「本当!? ありがとう!」
条件を飲んでくれたなら、それでもう問題は解決したようなものである。