俺様外科医と偽装結婚いたします
店を出たら、このまま自分の居場所を失ってしまうような、そんな寂しさが湧き上がってくる。
今までの自分なら、そこで危機感を抱き、出かけないという選択をしていただろうけど、今日の私はなんだか変だ。
朝からずっと、そわそわしている。寂しさすらも覆い隠してしまうほどの落ち着かない感情に背中を押される。
認めたくないけど……ここからの彼との時間を、楽しみにしている自分がいる。
私は表情を変えないまま踵を返して、店のドアを押し開けた。
待ち合わせの時刻までまだあと十分もある。
さすがにまだ来ていないだろうと思ったけれど、意外にも、夜の薄暗闇に混ざり合うように、見覚えのある黒色の乗用車がこちらへと顔を向けて路肩に停車していることに気が付いた。
確信は持てなかったため、私はその車へとゆっくり近づきながら、車内にいる人影へと目を凝らした。
「……あっ。やっぱり」
運転席に座っているのが環さんであることが分かれば、心なしか歩み寄るスピードが上がっていく。
助手席側の窓をコンコンと軽く叩くと、腕を組み、顔を俯かせて瞳も閉じていた環さんがピクリと動いた。
そして彼は私を見るとすぐに、手招きをしてみせた。