俺様外科医と偽装結婚いたします
「もしかして、待った?」
緊張しながら助手席のドアを開けて、早く着いていたのなら一言連絡入れてくれれば良かったのにと思いながら話しかけると、環さんが肩を竦めて答えた。
「寝てた」
「……あ、そう。眠ってたのに、邪魔してごめんね」
「本当だ」
反抗的な眼差しを交わしたあと、私は「失礼します」と不機嫌に助手席に乗り込んだ。
彼は行き先も告げずに、すぐに車を走らせる。
お店の前を通り過ぎる間、思わず目を向け、わずかに肩の力を抜いた。
「仕事、休ませて悪かったな」
信号で停車すると同時に、環さんがぽつりと話しかけてきた。私は軽く首を横にふりながら、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「弟の彼女が手伝いに来ているし、大丈夫。……そういう時は、いても逆に邪魔扱いされるから、かえって良かったかも」
彼に、というよりは自分に言い聞かせるように前向きな言葉を並べてみたけれど、表情までは明るく繕うことはできなかった。
「邪魔扱い?」
「うん……お祖母ちゃんは、私にいつまでも居座ってもらいたくないみたいで、二言目には外で働くか結婚しろって。いずれ家を出るだろう私ではなく、家に来てくれる弟の彼女を育てたいんだと思う」