俺様外科医と偽装結婚いたします
さっき目にした店の様子が脳裏に浮かんできて、少しばかり物悲しい気持ちになっていく。思わず自分のバッグを両手で抱きしめた。
「少し前まではOLとして働いてたの。辞めたことで、お祖母ちゃんの理想を崩しちゃったから、それからずっと何かと手厳しくて」
なんと気なしに運転席へと目を向けると、わずかに彼と目が合った。
そこで私は、この人に何を話しているのだろうかとハッと我に返る。気恥ずかしさで頬が熱くなっていく。
「そっ、それより。買い物って、どこにいくつもり? お店は?」
「決めてる。うちでよく使う店だ」
「……あぁそうですか。分かりました」
そのまま車内は無言となる。どちらも声を発することなくニ十分が過ぎたところで、やっと車は地下駐車場へと入っていった。
外へ出て、ハイブランドの店舗が並ぶ通りを進む。人で混雑しているからなおさら、歩幅の広い彼のあとを追いかけるのは大変である。
彼が足を踏み入れたのは、高級感漂うこの通りに店舗を構えるのにまさにふさわしい海外有名ファッションブランドのお店だった。
環さんに気付いた女性の店員さんが急ぎ足で歩み寄って来て、「久郷様、お待ちしておりました」と恭しくお辞儀をした。