俺様外科医と偽装結婚いたします
身体が熱くなる。鼓動の力強さが思考を麻痺させ、気持ちを舞い上がらせていく。
「友人として誘ってくれるなら……べ、別に行っても構わないけど」
わずかに上ずった声で返事をした。
嬉しさでいっぱいになればなるほど、怖さがちらりと顔をのぞかせる。
彼が、私の心に触れた。
銀之助さんのように……もしかしたら、銀之助さんよりも柔らかで温かな微笑みで、私の心を優しく掴んだ。
信号が青に変わると同時に、環さんがアクセルを踏み、右折するべき場所を軽快な速度で直進する。
もう戻れない。
湧き上がってきた甘やかで苦い予感に唇を引き結び、真っ直ぐ前を見つめている環さんの横顔だけを視界に宿した。