俺様外科医と偽装結婚いたします
じっと見つめる先で、彼が微かに笑った。
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環さんと共に船内へと足を踏み入れる。
すれ違いざまに招待客たちが環さんに声をかけてくるためなかなか先へと進めなかったけれど、デッキの三階部分に上がったところでやっと、私たちはやっと銀之助さんの姿を見つけた。
多くの人に囲まれるその中で、お酒のグラス片手に談笑している。
見上げれば煌びやかなシャンデリア。周りには着飾った人々。
百人くらいはゆうに入りそうなほど広い一室にテーブルがずらりと並べられていて、そこにたくさんの料理が並んでいる。
目に映るものすべてが夢物語のようで我を忘れてしまいそうになるけれど、やはり環さんは私とは違う。
周囲の華やかな光景になど目もくれず、銀之助さんだけをまっすぐに見つめたまま、ずんずん進んでいく。
そんな彼に置いて行かれそうになり、私は慌てて彼の腕を掴み直した。
銀之助さんは私たちに気が付くとすぐに、嬉しそうに顔をほころばせる。
「あぁ、咲良さん。来てくださったんですね。ありがとうございます」
「銀之助さん、今日はお招きいただきありがとうございます」
頭を下げたあと、銀之助さんが嬉しそうに目配せした右隣に立つひと組の男女がこちらに微笑みを向けてきたため、私は思わず身構えた。
「環くん、ステキな女性を見つけたようだね」
そう言って、男性が環さんの腕を親しげにポンと叩き、女性が品良く笑う。