俺様外科医と偽装結婚いたします
責任者というワードが環さんから飛び出したことで、途端に成木社長の顔色が変化する。
答えることにためらっているのがわかるほどぎこちなく、となりにいる息子へ目を向けた。
ふたりの間で何かあったのではなかろうなと疑っているみたいに。
「えっ……は、はい……それは、うちのせがれが……」
歯切れ悪く続けられたセリフに被せるように、環さんがポンと手を打つ。
「あぁ、そうでしたね。うっかりしていました。参加リストでお名前を拝見していたのを思い出しました」
そして、秘密を打ち明けるようにこっそりと続けた。
「実は俺も選者の一人として、コンペに出席することになっているんですよ」
「環くんが!?」
慌てて立ち上がった成木社長がにこにこと笑いながら環さんと向き合い、そして同じように声をひそめて願い出た。
「どこよりも誠心誠意頑張らせていただきますので、ぜひともうちに任せてください」
最後に「よろしく頼みますよ」の一言とともに、親しみを込めて肩に触れてきた社長の手に環さんが眉根を寄せる。
しかし不快な表情はすぐに消える。環さんは成木社長に微笑みで答えた後、いまだその場に座り込んだまま動けずにいる成木さんを見下ろした。