俺様外科医と偽装結婚いたします
脱力感に大きく息をつくと我慢していた靴擦れの痛みが主張しだしたため、私は確認するように自分の足首へと視線を落とした。
そんな私に気づいてすぐに、環さんが歩く速度を落としてくれた。
「大丈夫か?」
「うん。平気」
環さんが聞いたのは私が痛そうにしている足のこと。
それは間違い無いけれど、でもきっとそれだけじゃない。船で会いたくない人に遭遇してしまったことも含まれているように、私には聞こえた。
バラバラと響く靴音が時折重なる。そのことにすらくすぐったさを覚えて、私はこっそりと笑みを浮かべた。
薄暗闇の中、無言で進んでいく。環さんの車までたどり着いたところで、私は振り返って船を見つめる。
海上で煌びやかさを放っているそこだけが別世界みたいで、先ほどの船上での出来事も夢だったのではと思えてくる。
すべて終わってしまった。実感すると急に焦りで胸が苦しくなる。
私は環さんに「また会いたい」と自分の思いを伝えた。けれど、その返事は突然の乱入でうやむやになってしまった。
でも「馬鹿げているとは思わない」と言ってくれた。それはどう受け止めるのが正解だろうか。