俺様外科医と偽装結婚いたします

友好的に聞こえたから、今後会ってくれると期待しても良いのだろうか。

それとも、また恋人役として会うことになるかもしれないと、単に今後の展開を先読みして出た言葉なのだろうか。

船を視界に宿しながらそんなことを考えていた時、環さんがぽつりと呟いた。


「……さっきの」


ハッとさせられた私を環さんが見つめている。けれど目と目があったことで、彼は黙り込んでしまった。


「さっきの……なに?」

「いや、やっぱり聞かないでおく」


言葉にはせずとも、どうしても思い浮かべてしまうのは、やっぱり成木さんとの出来事。

しかも、私から視線をそらした環さんの横顔が心なしか苛立ってもいるため、一気に不安が募っていく。

私があんな男と繋がりがあったのを知って、見損なったと腹を立てているかもしれない。


「環さん、私……成木さんのことだけど」

「聞く必要はない」


きっぱりと拒絶され、思わず口ごもる。

勢いは削がれたけれど、心の中で渦巻く感情は勢いを増していく。

聞いてほしいと強く思った。

成木さんのさっきの言葉や態度だけで何があったのかを判断して欲しくない。

できることならば、私の言葉や思いも受け止めてもらいたい。

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