俺様外科医と偽装結婚いたします


「それでも聞いてほしい、私のことをもっと知ってもらいたいから」


そっと環さんの腕を掴むと、彼が目を大きくさせて私を見た。

嫌な思い出を話す覚悟を決めて息を吸い込んだ瞬間、環さんが大きく叫んだ。


「やめろって!」


それは怒りではなく苦しみだった。泣いてしまいそうなほど震えている声に、言葉を失う。

彼の腕を掴んでいた手を環さんに逆に掴み取られ、そのまま私は車のボディに強引に押し付けられた。


「どうにかなりそうで、聞きたくないんだ」

「環さん? ……っ!」


乱れた感情を吐露したその唇が、私の唇に重なった。

乱暴に重ねられた口づけに驚いて動けなくなる。


「……咲良」


艶っぽく囁かれ、鼓動が素直に反応を示した。徐々に早まっていく心音に煽られて、瞬時に頬が高揚する。

そっと包み込むように、環さんの手が後頭部と頬に触れた。細められた瞳はいつもはない熱を抱いている。

私はゆっくりと目を閉じて、環さんの背中へと手をまわした。

口づけが深くなる。無我夢中で私たちは互いを求め、むさぼるように応えあう。


「あいつとの過去など記憶にとどめておく価値はない。すべて忘れて、俺との今に目いっぱい溺れて」


とっくに船は降りているのに、夢のような時間は終わっていなかった。

環さんの唇に翻弄されて身体が熱くなる。

私のすべてが環さんを欲している。あなたが愛おしくてたまらない。


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