俺様外科医と偽装結婚いたします

環さんが私の横を走っている。まさかの展開に思わず足が止まった。


「ど、どうして? この時間は避けてたはずじゃ?」


彼とは、もう河川敷のこのルートは通らないと宣言されたあの時以来会っていなかった。

しかも昨日の今日だ。ここに姿を現すなんて想像すらしていなかった。

彼も数歩先で立ち止まり、不満な様子で振り返る。


「走りたいと思ったからそうしたまでだ。俺の自由だろ?」

「そ、そうだけど」


言いながら私は小さく頷く。確かに、何処を走るかは環さんが自由に決めることだ。

むしろ私はこの展開を喜ぶべきかもしれない。

私と鉢合わせることをあんなに嫌がっていたのに、この時間に河川敷を走りたいと思ってくれたことは大きな変化だ。

自分の考えに思わず笑顔になったけれど、すぐにそれはちょっと違うかもと思い直して笑みを引っ込めた。


「そうだった。私、今日はいつもより三十分早く家を出たんだった。もしかしてずっとこの時間に走っていたの?」


この偶然が、私が時間を早めたことで起きたというのならば無邪気に喜べない。環さんは私に会わないために、あえてこの時間に走っていたのだから。


「いや。河川敷を走るのは久しぶりだ」

「えっ! そ、そうなの?」


< 135 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop