俺様外科医と偽装結婚いたします
環さんが私の横を走っている。まさかの展開に思わず足が止まった。
「ど、どうして? この時間は避けてたはずじゃ?」
彼とは、もう河川敷のこのルートは通らないと宣言されたあの時以来会っていなかった。
しかも昨日の今日だ。ここに姿を現すなんて想像すらしていなかった。
彼も数歩先で立ち止まり、不満な様子で振り返る。
「走りたいと思ったからそうしたまでだ。俺の自由だろ?」
「そ、そうだけど」
言いながら私は小さく頷く。確かに、何処を走るかは環さんが自由に決めることだ。
むしろ私はこの展開を喜ぶべきかもしれない。
私と鉢合わせることをあんなに嫌がっていたのに、この時間に河川敷を走りたいと思ってくれたことは大きな変化だ。
自分の考えに思わず笑顔になったけれど、すぐにそれはちょっと違うかもと思い直して笑みを引っ込めた。
「そうだった。私、今日はいつもより三十分早く家を出たんだった。もしかしてずっとこの時間に走っていたの?」
この偶然が、私が時間を早めたことで起きたというのならば無邪気に喜べない。環さんは私に会わないために、あえてこの時間に走っていたのだから。
「いや。河川敷を走るのは久しぶりだ」
「えっ! そ、そうなの?」