俺様外科医と偽装結婚いたします
急降下していた気分が、環さんから返された言葉で上昇する。しかも環さんが気恥ずかしそうに顔を背けたりするから余計にテンションが上がっていく。
「そっ、それでどうして今日は河川敷を走りたい気分に?」
調子に乗って質問すると、環さんの表情が真剣なものへと変化した。不意をつかれて息を飲む。鼓動がトクリと跳ねた。
「気が変わったんだ。咲良の話が聞きたくて、ここに来た」
「私の話って?」
「昨日の、私のことをもっと知ってもらいたいからの続き」
自分の言葉を思い出すのにたっぷり五秒かかった。と同時に、あのとき環さんは「聞きたくない」と言っていたことも思い出す。
「本気で言ってるの?」
「あぁ。昨日別れたあとやっぱり聞けばよかったって後悔して、それで気になってよく眠れなくて……咲良が来るのを待とうと思って少し早めに家を出たんだ」
私はキスを思い出して眠れなくて、環さんは私の昔話が気になって眠れなくて、理由は違えど似た者同士だななんて考えると妙に楽しくなってくる。
「いいよ。私も聞いてもらいたかったし。歩きながら話そうか?」
側を駆け抜けていこうとするランナーを避けながらそう提案すると、環さんはこくりと頷き同意してくれた。