俺様外科医と偽装結婚いたします
しかし反論する気になれず、今度は適当に「はいはい」と言葉を返すと、「咲良!」とお祖母ちゃんが噛みついてきた。
私たちのやり取りにくすくすと笑い出した子連れのママふたりへと照れ笑いを浮かべて「ごゆっくりどうぞ」と声をかけたのち、私はカウンターと対面式になっているキッチンスペースへと移動する。
コーヒーポットを手に取ってお祖母ちゃんの注文に取りかかりながら、私は今朝会った彼のことを思い返していた。
私に向けられた表情や言葉、腕を捻りあげられた時の強い痛み、そして誤解に対する憤りが鮮やかに蘇ってきて、私は自然としかめっ面になってしまう。
もう二度とお目にかかりたくないのが本音だ。しかし彼が時間帯を変えなければ、また出くわしてしまうこともあるかもしれない。
そしてあの性格である。会ってしまったら、謝罪の続きを要求してくるかもしれない。
やっぱり関わらないのが一番である。私がもう少しだけ家を早く出るか、もしくは彼の姿に気付いたら、どこかにすばやく隠れてしまうか。
もういっそ、無視を貫き通すか。
こんな調子で朝から今後の対策を考えているのだけれど、なかなかいい案が思い浮かばず、憂鬱さばかりが膨らんでいる状態である。