俺様外科医と偽装結婚いたします

ドリッパーにセットした紙フィルターの中へとコーヒーの粉を投入し、ゆっくりとお湯を注ぎこむ。

カウンターの席からお祖母ちゃんが私の手元をじっと見つめていることに気が付いて、慌てて雑念を頭の片隅へと追いやり、コーヒーに気持ちを集中させる。

テストを受けているかのような緊張感に襲われていると、カランカランとドアのベルが響いた。


「いらっしゃいませ!」


手を止めて顔を上げると同時に、お祖母ちゃんも迎えるように立ち上がる。


「お邪魔するよ」


入ってきた年配の男性が発した優しい声が店内に響き、そして彼と目が合った瞬間、私も笑顔になる。


「銀之助(ぎんのすけ)さん、こんにちは!」

「咲良ちゃん、いつものいただけるかい?」

「はい! 今すぐ!」


銀之助さんは週に二回はうちの店に足を運んでくれる常連さんである。

だいたい店が落ち着いたこの時間帯にやって来て、空いていれば窓際の席に座り、外を眺めたりお祖母ちゃんとおしゃべりしながらコーヒーを飲まれる。

本人は自分のことを六十代の老いぼれと言ったりするけれど、そんなことは全くない。

姿勢良くスーツを着こなす姿は格好良い。まるで映画に出て来くる俳優さんみたいで、とっても素敵だ。

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