俺様外科医と偽装結婚いたします
「……咲良」
玄関に向かうため店の扉を押し開けようとした瞬間、お祖母ちゃんに呼び止められた。そして振り返った私に向かってまっすぐに歩いてくる。
「昨日はどうだったかい?」
「えっ? ……た、楽しかったよ?」
菫さんと同じ質問をしているよと明るく笑いたかったのに出来なかった。お祖母ちゃんがあまりにも真剣な顔をしているからだ。
「お偉いさんたちとの挨拶が多くて、気疲れしたんじゃないかい?」
「うん。ほとんど笑っていただけだけど相手は名の知れた会社の社長とかそういう人たちばかりだから、緊張もするし正直疲れたよ。でも、環さんの隣にいたらそうなるのも当然だと思うし……」
言葉を続ければ続けるほど空気が重くなっていくように感じて、次第に頬が引きつり出す。
私は一呼吸置いてから、そんな空気を吹き飛ばすように出来るだけ明るく感想を述べた。
「昨晩は夢みたいな時間だったよ。お姫様にでもなった気分」
私の言葉を受けてお祖母ちゃんは視線を落とした。声を震わせて思いを露わにする。
「私は大切なことを忘れていたのかもしれないね」
「……お祖母ちゃん?」