俺様外科医と偽装結婚いたします
「可愛い孫娘には世界一幸せになってもらいたい。銀之助さんは紳士だし彼のお孫さんならきっとって期待が膨らみ、しかもあの加見里病院の跡取りで将来有望だとわかったら……咲良の物憂げな表情を見て見ぬふりをしてしまった」
これほどまでにか細いお祖母ちゃんの声を聞くのは初めてだった。後悔と切なさを凝縮させたような声音に私は言葉を失う。
「梅子さんのプレッシャーから逃げたくて咲良は見合いを受けたって菫ちゃんから言われてしまったよ。この人とは幸せになれないって判断してダメになったとしても、咲良が戻って来られる場所だけは残しておいてあげてくださいとも」
ランニングから家に戻ってきた時に見た、向かい合い立っていたふたりの姿を思い出す。そんな話をしていただなんて夢にも思わなかった。
「確かに私たちみたいな普通の人間と環くんとでは住む世界が違うかもしれないね。彼自身も厳しい人のようだし、きっと周りだって環くんに見合うようにと咲良に多くを要求してくるかもしれない」
声の真剣さが増していき、お祖母ちゃんは何を言おうとしているのかと急に怖くなる。自然と両手の拳を握りしめていた。