俺様外科医と偽装結婚いたします
終わりの理由
「咲良ちゃん、聞いたよ。いい人が現れたんだってね」
注文のカツサンドを手渡して代金の支払いも終え、店に戻ろうと田北さんの家の玄関から出ようとした時、我慢しきれなかった様子で田北さんが話しかけてきた。
私はドアノブに伸ばした手を引っ込めて、向き合い直す。
「もしかして母から聞きましたか?」
「えぇそうですよ。自分のことのように嬉しいわ。機会があったら紹介してちょうだいね」
イエスともノーとも答えずに曖昧な笑みで応じてから、この場を切り上げるべく機敏に頭を下げた。
「機会がありましたら……ありがとうございます。またよろしくお願いします!」
そのままそそくさと私は田北さん宅を出た。
玄関前に停めておいた自転車にまたがってやっと、大きな息をつく。
環さんとの話が広まれば広まるほど居た堪れなくなり、口に出せない思いに切なさが募っていく。
エプロンのポケットからスマホを取り出したけれど、なにかの操作をすることもなくすぐ元の場所に戻してわずかに肩を落とす。
お祖母ちゃんからこのままで良いと言われてからすでに三日が経っている。
その間、環さんとは何度も連絡を取り合った。