俺様外科医と偽装結婚いたします
マンションの前に菫さんの車が停まっているかなと目を凝らして先を見つめて……ある事に気が付き、思い切りブレーキをかけた。
菫さんの赤い車は停まっていた。そして、その手前に見覚えのある黒い乗用車が止まっている。遠目でもわかる。あれは環さんの車だ。
もしかして、環さんもこのマンションに住んでいたの?
疑問が嫌な予感を連れてくる。鼓動が鈍い音を立てて響き始めた。
マンションから女性が一人でてきた。このタイミングで菫さんが現れたことに動揺し、私はすぐに自転車から降りて生け垣の陰に隠れるよう移動する。
菫さんは立ち止まり後ろを振り返ると、誰かになにかを話しかけた。すぐにその話し相手も姿を現して菫さんの目の前で足を止める。
「……環さん」
菫さんを追って出てきたのは、紛れもなく環さんだった。
ふたりの表情はとても深刻だった。苛立っているようにも見えるほどに。
環さんは病院からそれほど離れていない場所に住んでいるのだろうなとは思っていたけれど、まさか菫さんと同じマンションだとは想像もしなかった。
環さんがうんざりしたような顔で自分の車へ向かって歩きだす。