俺様外科医と偽装結婚いたします
慌てて生け垣の陰で身体を小さくさせた瞬間、菫さんが「久郷先生!」と大きく叫んだ。追いすがるような響きに一気に胸が苦しくなる。
環さんが車に乗り込むと、菫さんは自分のではなく環さんの車の助手席に乗り込んだ。
そしてやや間を置いてから、車は彼女を乗せたまま走り出した。
ふたりはいったいどんな関係なの? 浮かんだ疑問に目の前が真っ白になっていく。
同じ病院で医師として働き、同じマンションに住んでいて、気軽に助手席に乗れてしまうような親しい関係。
先日店の前で話をした時の菫さんの表情が、成木さんの婚約者だった友人の顔と重なった。
身体の奥が冷えていくのを感じながら私はふたりが住んでいるマンションを見上げる。
まさか付き合っていて、……同棲しているなんて言わないないよね?
成木建設で働いていたころの嫌な記憶が鮮やかに蘇ってきて、私はぎゅっと目を閉じた。
環さんと菫さんがそういう関係だと言うのならば、私はこれ以上彼と一緒にはいられない。
環さんも菫さんも好きだからふたりの喧嘩の原因になどなりたくないし、私だってふたりに嫌われることで苦しい思いはしたくない。できるなら友達でいたい。