俺様外科医と偽装結婚いたします
しかし、お祖母ちゃんは私に「ここではなく外で働け」とか「勤め口を見つけられないなら、見合いでもしてはやく良い人を見つけろ」とうるさいため、仕事に慣れれば慣れるほど、どんどん肩身が狭くなっていく。
今は亡きお祖父ちゃんとふたりで始めたこの店を誰かに継がせる気はないと、私が子供の頃からお祖母ちゃんは口癖のように言っていた。
私が前職を辞めた頃も、お祖母ちゃんの考えは変わっていなくて、店で働かせてもらうために何度も何度も頭をさげ、やっと首を縦に振ってもらったのだ。
実は心の片隅で、自分も一緒にこの店で働けたら良いのにと考えていた。
だから店の茶色のエプロンをつけた時、とっても嬉しかったことを今でもはっきり覚えている。
お祖母ちゃんは嫌がるかもしれないけれど、暖簾を下ろすその瞬間まで、私も一緒に頑張りたいと強く思ったのだ。
しかしそのわずか三ヶ月後……事態は一変することとなる。
店の奥にある自宅と繋がっているドアが開き、コックコートに身を包んだ弟の陸翔(りくと)が顔を出した。
「母ちゃんまだ戻って来てないの?」
店内を見回したあと私で視線を止めた陸翔に頷き返すと、弟は半笑いで短髪の自分の頭に触れる。