俺様外科医と偽装結婚いたします
三階へと移動して、事務室や医局に面した埃ひとつない鏡面のような廊下をまっすぐ進んでいく。大きな窓と向かい合うように院長室があった。
菫さんがドアをノックすると、やや間を置いてから「はい」と返事がされた。確かに銀之助さんの声だ。
「失礼します」
菫さんがドアを開けて先に室内へ入っていく。緊張感の高まりを和らげたくて大きく息を吸い込んでから同じく「失礼します」と声をかけて、私も中へと進んだ。
滑らかな絨毯の上に応接用のソファーがあり、その向こう側に一面の窓を背にした形で立派なデスクが置かれている。そこに書き物をする銀之助さんの姿があった。
ソファーの手前で菫さんが足を止めたため、私も彼女の後ろで停止する。
入り口近くの壁際に大きな棚が二つほど並んでいる。
片方は医療関連だと思われる難しそうなタイトルの本がずらりと並んでいて、もう一方は沢山のファイルといくつかの写真が飾られていた。
何気なく見つめて、思わず目を見張った。大人三人に囲まれる形で幼い男の子が嬉しそうに笑っている。
男の子が環さんで、環さんの肩に手を置き後ろに立っている男性が銀之助さんだということすぐに気がつき、ふたりの両脇に立っている男性と女性に自然と目がいく。