俺様外科医と偽装結婚いたします
きっと環さんのお父さんとお母さんだろう。
幸せな時間を切り取ったような四人の写真に見入っていると、キシッと椅子が小さな軋みを上げた。
銀之助さんはペンを走らせていた手を止めると、かけていた眼鏡も外してゆっくりと立ち上がる。
「咲良さん、先日は私の思いつきに付き合ってくれてありがとうございました。おかげさまで大変有意義な時間を過ごすことができました」
「……いえ。私はなにも」
私は銀之助さんの誕生日パーティーで、終始周りの雰囲気に圧倒されていただけだった。
むしろ一歩間違えれば、成木さんの件でパーティーに水を差すような事態を招いていたかもしれない。
今更ながらゾッとする。ひどい騒ぎにならなくて本当に良かった。
銀之助さんはソファーに腰をおろすと、私にも座るように対面側にある同じソファーへと手を差し向けた。
菫さんは立ったままなのにという気まずさに苛まれながらも、軽く頭を下げつつ前へと進み出てふかふかのソファーにそうっと座る。
落ち着かなくて後ろを振り返る見ると、同じようにそわそわと菫さんが腕時計で時間を確認していた。
確かまだ仕事が残っていると言っていた。案内を終えたため戻りたいのだろう。