俺様外科医と偽装結婚いたします
菫さんが「あの」と話を切り出そうとした時、銀之助さんが「岩坪くん」と鋭く声を響かせて発言を制止した。
「悪いがもう少しここにいてもらえないだろうか。君にも聞いてもらいたい話があるんだ」
「……わ、私もですか? ……は、はい」
銀之助さんからの要求に菫さんは心なしか顔色を悪くさせ、私をちらりと見た。
その視線が不吉な予兆に思えて、一気に増幅した不安で胸が苦しくなっていく。
もしかして、菫さんはこの前私と話したことを銀之助さんにも言ったのだろうか。
嫌な予感に不安が強くなり、冷静さまで失いそうになる。私は視線を落として、膝の上でぎゅっと拳を握りしめた。
「……咲良さん。うちの環はどうだい? 淡白な男だから、一緒にいると戸惑うことや足りないと感じる部分も多いだろう?」
ここで逃げたら後悔する。それだけは嫌だ。
銀之助さんをしっかりと見つめて、引きむすんでいた唇を開いた。
「私は環さんを素敵な男性だと思っています。むしろ足りないのは私の方です。彼の隣にいるのが私なんかで本当に良いのかなって、何度も思ってしまいます」
最初こそ衝突もしたけれど、今は環さんに対して素直にそう思っている。
器量好しだし職業も立派だけれど、それだけじゃない。