俺様外科医と偽装結婚いたします
不器用にも思える言葉やはにかんだような微笑み。心の中の苦しさと向き合い乗り越えていこうとする強さ。そして、銀之助さんの幸せを願う大きな優しさ。
環さんという存在を形作っているその一つ一つが、とても純粋に輝いている。
「なんの取り柄もない私には、環さんは眩しすぎて」
ぽつりぽつりと思いを言葉にしたのち、銀之助さんの表情が曇ってしまったことに気がついて焦りが膨らむ。
戸惑いつつ菫さんへも視線を向けると彼女もまた同じように顔を伏せていて、自分の言葉が深刻に聞こえてしまったのかもとさらに焦りが募っていく。
彼と一緒にいたいとか、つり合う女性になれるよう頑張りたいですとか、何か前向きな発言もしておいた方が良いかもしれない。
そんな危機感を覚えた時、銀之助さんがうな垂れるように背中を丸めて、ほんの数秒間、両手で頭を抱えた。
その行動を目を大きくして見つめていると、銀之助さんがゆっくり顔を上げた。
先ほどとは全く違う覚悟に満ちたような顔つきを見せられて、ドクリと鼓動が嫌な音を奏でた。
「……ぎ、銀之助さん?」
たまらず震える声で問いかけると、「咲良さん」と冷たく感じるほどの落ち着いた声が続いた。