俺様外科医と偽装結婚いたします
「私は、あなたなら環の心を解かしてくれるかもと身勝手な望みを抱いていました。けれど、やっぱり環は変わらなさそうだ。歪なまま恋人のように振る舞い続けていたら、あなただけが悲しむ結果に終わってしまうと今やっと分かって決心がつきました」
銀之助さんは一度口を閉じて、私に向かって深々と頭を下げてきた。
「今までありがとう。そして振り回してしまって本当にすまなかった。あなたのために心を砕き、深い愛で包み込むことのできる男性が現れることを願っています」
目の前が真っ暗になる。お祖母ちゃんだけでなく銀之助さんにまで……もういいと言われてしまった。
謝られても、自分に対する失望の念は痛いほど伝わってくる。
涙がこみ上げてきて咄嗟に唇をかんだ瞬間、背後で扉が手荒に開かれた。
振り返ると同時に、私と菫さんの間から銀之助さんの前へと進み出るように人影が視界を横切った。
「……ふざけるな。なに勝手なこと言ってるんだ」
環さんだった。拳を震わせて、表情は怒りに満ちている。
そんな彼を目の当たりにしても銀之助さんは慌てることもなく、のんびりと膝の上で両手の指を組む。
「私が勝手なことを口走るのは今に始まったことではないだろ?」