俺様外科医と偽装結婚いたします
環の手を掴んでそっと押しやった。自分から離れた手を……私はどうしても手放すことができなかった。
吐いた嘘で心が痛い。環さんと一緒にいたい理由ならしっかりとこの胸の中にある。
環さんが好き。
あなたといつまでも一緒にいたい。
抱くはずなどないと思っていた感情が私に根付き、たくさんの気持ちを生み出している。
絶望に深い悲しみ、菫さんへの嫉妬、それでも湧き上がる環さんへの止められない恋情。
「環さんは菫さんと幸せになって。大丈夫、病院のためだけの結婚になんてならないから。きっと菫さんとならみんなが羨むくらいの大恋愛ができるよ。菫さんは本当に素敵な女性だから、温かい家庭だって築ける」
震える気持ちを押し殺して、私は環さんから手を離した。
「さようなら」
言い切って、環さんに背を向けた瞬間、涙がこぼれ落ちた。
嗚咽を漏らさず肩も震わせないように必死に耐えながら、私は前だけを見つめて歩き続けた。