俺様外科医と偽装結婚いたします
途切れぬ思い
静かな夜だった。
涙でぐちゃぐちゃの顔を家族に見られたくなくて加見里病院を出たあと家には戻らずに、そのまま私はあてもなく歩き続けた。
環さんのことが頭に浮かんでは消えていく。その繰り返しにまた涙が流れ落ちていく。
とある公園の前で足が止まった。蘇ってきた過去の記憶がまた新たな切なさの雫となって心に波紋を描いた。
いつの間にか、田北さんの家や環さんと菫さんの住んでいるマンションの近くにある公園まで来てしまっていた。
ここは環さんと再会した思い出の場所でもある。そんな場所にいたら辛くなるのはわかっているのに、足は勝手に公園に向かって進み始めていく。
いつか銀之助さんと並んで座ったベンチに腰掛けて、夜空を見上げた。地上が明るいから星も見つけられない。
癖のように上着のポケットから取り出したスマホに視線を落としたけれど、画面は真っ暗なまま。
「少し帰るのが遅くなりそう」と実家のお店に連絡を入れたあとすぐに電源を落としてしまったからだ。
今は一人にしておいて欲しかった。今の私には誰かと冷静に言葉を交わす余裕がない。きっとわめき散らしてしまう。
諦めなくちゃと思うのに、気がつけば彼のことを考えている。公園の横の車の流れに目を向けては、環さんのと同じ車種を探している。