俺様外科医と偽装結婚いたします
「なんで今更そんなこと言うのよ。結婚しろってずっと言っていたじゃない。それなのに突然すべて無かったことにって当たり前の顔で振り回して」
頭の中がぐちゃぐちゃだった。目の前のおばあちゃんに対してだけじゃなく、銀之助さんに向けての言葉まで口をついて出てくる。
「そうじゃない。私はね、咲良の幸せを……」
「私のことなんて何一つ見えてないくせに、分かったようなこと言わないでよ! 結局お祖母ちゃんは、自分の思い通りにしたいだけのくせに!」
心の澱を吐き出すように叫んだ。重々しく鳴り響く自分の鼓動を感じながら、泣きたくなるのをぐっとこらえた。
「……知らず知らず私は咲良を苦しめていたんだね……ごめんね。許しておくれ」
弱々しい笑みとともにお祖母ちゃんが懺悔の言葉を口にし、深く頭を下げた。
その姿を目の当たりにし、カッと燃え上がっていた熱が一気に冷めていく。
私は今お祖母ちゃんを傷つけた。
八つ当たりしてしまったことへの後悔の念が芽生え出し、なおも頭を下げ続けている小さな身体から気まずく目をそらす。
何も言えないまま立ち尽くしていると、突然、お祖母ちゃんから「ぐっ」と息が漏れた。ひどく苦しげな音に、慌ててお祖母ちゃんへと視線を戻す。