俺様外科医と偽装結婚いたします
環さんも私たちのすぐそばで膝を着くと、お祖母ちゃんの肩に手を置いて、状況を確認するように様子をうかがう。
「どうしましたか? 大丈夫ですか?」
「あぁ……環さん。平気だよ……ちょっと、苦しくなっただけで……」
その言葉に対しては何も返さずに、環さんは「失礼します」と囁きかけるとお祖母ちゃんの手首に触れて脈を読む。
医師の顔で真剣にお祖母ちゃんと向き合う環さんの姿を見て、やっと息を吐き出す事ができた。
安堵とともに後悔の念が心を締め付ける。私は言葉でお祖母ちゃんを追い詰めておいて、何も出来ずにただオロオロしていただけだった。
そして今更ながら心に恐怖を抱えていたことも気づかされる。このままお祖母ちゃんが倒れてしまったら……失ってしまったらどうしようと、ものすごく怖かったのだ。
はらはらとこぼれ落ちていく涙を拭うことなく、ただ二人の傍で地面にぺたりと座り込んでいると、ふうっと小さく息をついた環さんの顔がこちらに向けられる。
見つめ合い優しげに目を細められた。鼓動が跳ねて頬が熱くなってやっと、本当に環さんが目の前にいることを実感する。
お祖母ちゃんは先ほどよりも幾分落ち着きを取り戻しているように見えるけれど、だからといって受けた不安まで消えるわけじゃない。