俺様外科医と偽装結婚いたします
そして姿勢を正して長椅子に座り直してから、顔を前に向けたままこそっと話しかけた。
「久郷先生、こんなところで油売ってていいんですか?」
「ちょうど手が空いたし、仕方ないから来てやった」
ちらりと目を合わせて、ふたりそろって苦笑いする。
心が穏やかになっていくのを実感しながら、私は先ほどより落ち着いた声で喋り出す。
「昨日は本当にありがとうございました。環さんがいてくれたからとても心強かったです」
「どういたしまして」
環さんものんびりと答えてくれた。彼がそばにいることの心地良さに身を任せていると、膝の上でスマホに重ね置いていた手を環さんにそっと掴み取られた。
不思議に思いながらその手を目で追いかけてどきりとする。環さんが私の手に指を絡ませてきゅっと握りしめたからだ。
恋人繋ぎに、一気に沸点まで達したかのように身体が熱くなる。おまけに環さんが意地悪な笑みを浮かべて私をじっと見つめてくるからなおさらだ。
「病院内でこんなことしてたら、あとで困ることになるんじゃ」
通り過ぎようとしていた看護師さんたちが急に足をとめて驚き顔でこちらを見ている。それに気づいて手を引こうとしたけれど逃れることはできなかった。