俺様外科医と偽装結婚いたします
控えめに聞こえてきたエレクトロニック・ダンス・ミュージックの音量を上げ、深呼吸をし、私は走り出した。
ランニングは、欠かせない毎朝の習慣である。
自宅に隣接して建っている加見里(かみさと)病院の前を通って大通りへと出て、信号を三つほど過ぎたところで横道に入ると、川沿いの小道へと通じる下り階段に出る。
私は階段の上で足を止めて、呼吸を整えながら朝日を反射する眩い水面へと目を向けた。
気力が漲ってくるのを感じて口元に笑みを浮かべた時、南の方角からこちらへと向かって、ひとりの男性が小道を走ってくる姿を見つける。
「今日は挑戦の日ね」
一定のペースで近付いてくる長身の男性を見つめたまま、そう小声で呟き、私は慌てて階段を駆け下りていく。
彼が目の前を通り過ぎていった。私は少しばかり距離を置いてから、後を追いかけるように小道を走り出す。
少し先を行く彼は、この道で時々見かける男性で、いつも速いペースで駆け抜けて行く。
あっさり追い抜かれることが何度も続くと徐々に悔しくなってきて、いつの間にか彼は、私の目標という名のターゲットとなっていた。
彼についていく。今日は絶対に後れを取らない。