俺様外科医と偽装結婚いたします
失礼なくらいじっと見つめてしまった私に、銀之助さんが苦笑いでそう囁きかけてきた。
自分の状態を知らされてやっと我に返り、深く頭をさげた。
「本当にすみません。今すぐお取り換え……」
「では。ソーサーだけ取り替えていただけますか?」
「……はい。分かりました。少々お待ちください」
慌ててキッチンスペースに戻る私と入れ替わるように、レジで会計を受け終えたお祖母ちゃんが銀之助さんの元へとやってきた。
「本当にごめんなさいね。いつまで経ってもぼんやりした子で困ったものです」
「そんなことないですよ。咲良さんはいつも元気で、よくやっていらっしゃる」
ソーサーと布巾を手に取ると、これほどまでに優しい銀之助さんに対し申し訳ない見間違いをしてしまったと私は肩を落とした。
癪だけれど、お祖母ちゃん言う通り、すべてはきっとぼんやりと考え事をしていたせいだと思う。
窓の外を見つめていた銀之助さんの凛とした横顔が、今朝会ったあいつと重なって見えてしまったのだ。
とは言え、似ていると感じたのはその一瞬だけである。穏やかな眼差しで私を許してくれた銀之助さんを見ても、彼と似ているなどとはこれっぽっちも思わない。