俺様外科医と偽装結婚いたします

私がお客様からお代を受け取った時、銀之助さんがお祖母ちゃんに問いかけたのが聞こえてきた。


「梅子さん。もしかして私の顔に何かついていますか? 咲良さんが私の顔を見て驚いているように感じるのですが」


それは私がじろじろ見ていたため浮かんだ疑問だということは明白だった。

「違うんです」と口を挟みたくなり銀之助さんへと視線を戻すと、テーブル脇に立ったままのお祖母ちゃんと目が合ってしまい、また変なことをしてといった風にしかめっ面をされてしまった。


「いえ。なんにもついていません。銀之助さんはいつも通りハンサムですよ」


お祖母ちゃんからハンサムと返されて、銀之助さんは「それならよかった」と穏やかに笑ったあと、コーヒーを一口飲んだ。

お客を見送り、銀之助さんのテーブルへと舞い戻り、お祖母ちゃんから汚れたソーサーを受け取った。そのまま流し台へと足を進めながら、私は銀之助さんへと笑いかけた。


「銀之助さん、違うんです。実は……とある人にほんの少しだけ似ているような気がして、ちょっと驚いてしまっただけです」


私の言葉に興味を持ったらしく、銀之助さんが瞳を輝かせた。


「ほほう。とある人とは、もしや咲良さんの恋人ですか?」

「えっ?……ちっ、違います。そんなんじゃありません。絶対に違います!」




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