俺様外科医と偽装結婚いたします
「けれど今お付き合いされている男性がいらっしゃるなら、覚悟しておかないといけませんね」
「残念ですけど、今のところその心配は要りませんよ。咲良に恋人はいませんから。いれば私も安心なんですけどね」
残り少なくなってしまったオレンジジュースのコップを手に流し台へと戻りながら、私はぼんやりとどこかを見つめているお祖母ちゃんに向かって顔をしかめてみせた。
そんな私を見ていた銀之助さんが苦笑いを浮かべた時、お祖母ちゃんが「あっ!」と声を上げた。
「銀之助さん。知り合いに誰か良い人いませんか? 咲良をもらってくれるような奇特な男性が」
「おっ、お祖母ちゃん!」
ジュースを新しく用意しようとしていた手が止まる。
思わず声を大きくさせてしまったけれど、お祖母ちゃんはほんの一瞬私に冷めた視線を寄越しただけで、すぐに期待のこもった目で銀之助さんを見つめた。
「……そうですねぇ……いや。誰かを紹介するくらいなら、うちの孫の嫁に頂きたい」
「まぁ! 銀之助さんのお孫さんならきっとハンサムね! 良かったじゃない咲良! すぐに紹介してもらいなさい!」
銀之助さんの孫。ぱっと頭に思い浮かべてしまったのは、あいつの顔だった。
「……遠慮させていただきます」
ぞくりと背筋を震わせたあと、私は小声で言葉を返した。