俺様外科医と偽装結婚いたします
「良かったら玄関にでも飾ってちょうだい」
手渡された紙袋をのぞき込み、見えた箱に対して首を傾げた私へと、田北さんが言葉を追加させる。
「ハーバリウムよ。自分で作ってみたの」
思わず声を発し、先ほど自分の視界にちらりと入っていた犬の置物のすぐ横に置かれているハーバリウムへと目を向けた。
手の平サイズほどの大きさの細長い瓶の中に黄色い花やカスミソウなどが入っている。
「もしかして、これも田北さんが?」
「えぇそうよ」
「すごい! とっても素敵です!」
田北さんは手先が器用で、今までにもリースやかごバッグなど手作りのものをいくつかいただいているのだ。
「これは黄色だけど、そっちは咲良ちゃんのイメージなの。ピンク色のものを使って可愛らしく作ってみたのよ」
「私の!? わぁっ嬉しいです! 大切に飾らせてもらいます! ありがとうございます!」
感動で声が上ずってしまった私を、悪戯っ子のような笑みを浮かべた田北さんがじっと見つめてきた。
「梅ちゃんに聞いたわよ。咲良ちゃん、お見合いするんですってね」
舞い上がっていた気持ちが一瞬でなりをひそめ、頬が引きつりだす。
自分にそのつもりはないと否定しようとしたけれど、あまりにも期待のこもった眼差しを向けられてしまい私は言葉を濁すことしかできなかった。