俺様外科医と偽装結婚いたします
「良いご縁に恵まれると良いわね。咲良ちゃんの結婚式にはブーケをプレゼントさせてちょうだいね。あぁ、楽しみだわ」
「……そ、その時はよろしくお願いします」
「お見合いのお相手は」と話題が膨らみそうだったため、私は驚きの声をあげて上着のポケットからスマホを取り出した。
「もうこんな時間! そろそろ戻らないと!」と田北さんの話を早口で遮り、「ありがとうございました!」と頭をさげつつ、「またよろしくお願いいたします!」と笑顔で田北さん宅を後にした。
後ろかごに配達バッグを、前かごに頂き物をそっと置き、私は自転車を押してゆっくりと歩き出す。
銀之助さんが私を「うちの孫の嫁に頂きたい」と口走ったのが一週間前のことである。
私はあの場できっちり断ったというのに、お祖母ちゃんはすっかり乗り気になってしまっていて、勝手に話を進めようとしている。
そんなに結婚させたいのかと、だんだん面倒くさく感じるようになり、最近は会えば気が済むというのなら、いっそそうしてしまおうかとなげやりに考えるようになってしまった。
ご縁がなかったということになれば、お祖母ちゃんも諦めるのだから。