俺様外科医と偽装結婚いたします
「ここ確か……デザイナーズマンションだったよね。さすが女医さん」
感心して思わず出た言葉に、菫さんは「なにそれ」と気取る様子もなく陽気に笑う。
「菫さんは今から仕事?」
「ううん、休み。これから気晴らしに車走らせてくる」
「そっか。気をつけてね」
彼女の赤色の愛車を筆頭に、マンションの前の駐車場に並んでいる三台の高級車をぼんやり見つめていると、菫さんが身を屈めて私の顔をのぞき込んできた。
「あっ……梅子さんにまたなんか言われたでしょ?」
鋭い指摘にどきりと鼓動が高鳴った。
しかし気持ちを隠そうか迷ったのはほんの一瞬だけ。
すぐに私は苦笑いを浮かべてこくりと頷き返し、実はお見合いさせられそうになっていると正直に打ち明けた。
菫さんは店の隣に建っている加美里病院に勤めていて、夜の七時過ぎくらいによく来店してくれる。
二歳差と年も近いため話が合い、気が付けば大切な友人となっていた。
すっかり心を許している今、誰にも言えない悩み事も彼女にだけはこうして素直に言うことが出来るのだ。
「梅子さんもしびれを切らして強引な手段にでたね」
「私だって結婚したくない訳じゃないけど……男性と付き合ったりとか、まだそんな気持ちにはなれない」