俺様外科医と偽装結婚いたします
ぽつりぽつりと思いをこぼすと、「そっか」と菫さんの声が切なげに響いた。
自分の一言で空気が重くなってしまったことに気が付き、私は無理矢理笑みを浮かべて「でもね」と話を続けた。
「とりあえずその孫とやらに会うだけあってみようかなって思ってるんだ。会ってダメだったなら、お祖母ちゃんも諦めるしかないだろうし」
「そうね、それがいいかも」
菫さんもいつもの笑顔を取り戻し、私を励ますようにばしっと背中を叩いてきた。
「彼氏が欲しくなったらいつでも言って、誰か紹介するから」
「誰か? だったらイケメンのお医者さんが良い」
「イケメンなら何人かいるけど……どれも癖が強くて、中身は保証できないかも」
「やっぱり遠慮しておきまーす」
あははと笑いながら軽口をたたいたあと、菫さんは「それじゃあ仕事頑張ってね」と自分の車に戻っていった。
私も早く店に戻らなくてはいけない現状を思い出し、菫さんを見送ることもせずに慌てて自転車に跨がる。
菫さんに会えて良かった。
ほんの少し話をしただけだけれど、自分の考えにそれが良いかもと彼女が同調してくれたことで、間違っていないよと背中を押してもらったような気持ちになれたからだ。