俺様外科医と偽装結婚いたします

だからこそ銀之助さんのくれた言葉に胸が震えた。こんな私でも必要としてくれているということが、嬉しくてたまらなかった。


「もちろん咲良さんのお眼鏡にかなう男でなければ、すぐにノーと言ってもらって構わない。一度だけでも良いから、孫の環(たまき)と会ってみませんか?」


慎重に切り出された最後の言葉で、私は覚悟を決める。銀之助さんを真っ直ぐ見つめて、自分の気持ちを口にする。


「お孫さんと会ったとしても、お祖母ちゃんや銀之助さんの望むような形にはできないかもしれませんが、一度話がしてみたいです」


見つめる先にある銀之助さんの表情が徐々にほころんでいく。


「咲良さん、ありがとうご……いてて」

「あぁっ。銀之助さん、大丈夫ですか?」


目を輝かせて勢いよく立ち上がろうとしたため、案の定、銀之助さんは苦痛に満ちた声をあげながら腰を押さえた。

私も慌てて両手を伸ばし、ぎこちなく座面にお尻を戻そうとする銀之助さんの身体を支える。

なんとかベンチに座り直すと銀之助さんは大きく息をつき、座面に置いていたスマホへと手を伸ばした。


「咲良さんの気が変わらないうちに、近々食事の場を設けさせてもらってもよろしいですか?」

「えぇ。いつでも」


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