俺様外科医と偽装結婚いたします
もうすぐ行く手が三つに分かれる。まだまだ真っ直ぐ先へと続く道に、左手側には住宅街へ戻る階段、右手側には斜張橋。
私は階段をのぼって家へと帰り、彼は橋を渡って向こう岸にもある同じような小道へと進んでいく。
短時間でずいぶん小さくなってしまったその背中は、もうすぐその分岐点に差し掛かろうとしていた。
オーバーペースで走ってしまったため、きついし苦しいのだけれど、階段にたどり着くまでは、出来るかぎり足を止めずに走り続けよう。
競争相手を自分自身に変更し本来の自分のペースで走り始めると、程なくして、前方を走っていた男性に対し違和感を覚えた。
分岐点の少し手前で、彼が立ち止まったのだ。
後ろから見る限り、苦しそうに身を屈めている訳でもなく、スマホの操作など何かをしている様子もない。
真っ直ぐ前方を見つめたまま、ただ立ち尽くしているようにしか私には見えなかった。
どうしたのだろうかと不思議に思いながら、徐々に彼との距離を縮めていく。
ほんの少しだけ気味の悪さを感じてはいたけれど、好奇心には勝てなかった。
棒立ちになっている男性を追い抜かすその瞬間、私は彼へと目を向け……ぎくりとした。