俺様外科医と偽装結婚いたします

もうすぐ行く手が三つに分かれる。まだまだ真っ直ぐ先へと続く道に、左手側には住宅街へ戻る階段、右手側には斜張橋。

私は階段をのぼって家へと帰り、彼は橋を渡って向こう岸にもある同じような小道へと進んでいく。

短時間でずいぶん小さくなってしまったその背中は、もうすぐその分岐点に差し掛かろうとしていた。

オーバーペースで走ってしまったため、きついし苦しいのだけれど、階段にたどり着くまでは、出来るかぎり足を止めずに走り続けよう。

競争相手を自分自身に変更し本来の自分のペースで走り始めると、程なくして、前方を走っていた男性に対し違和感を覚えた。

分岐点の少し手前で、彼が立ち止まったのだ。

後ろから見る限り、苦しそうに身を屈めている訳でもなく、スマホの操作など何かをしている様子もない。

真っ直ぐ前方を見つめたまま、ただ立ち尽くしているようにしか私には見えなかった。

どうしたのだろうかと不思議に思いながら、徐々に彼との距離を縮めていく。

ほんの少しだけ気味の悪さを感じてはいたけれど、好奇心には勝てなかった。

棒立ちになっている男性を追い抜かすその瞬間、私は彼へと目を向け……ぎくりとした。

< 4 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop