俺様外科医と偽装結婚いたします
両手で彼の手を振り払ってその場から離れようとしたけれど、すぐに環さんに「ちょっと待て」と腕を掴み取られてしまい、ため息と共に私は振り返る。
「好きなだけ呆れていてください。……それから、先ほどの約束はなかったことにして欲しいと、銀之助さんにお伝えください」
「や、約束って、いったいなにを」
変に動揺している環さんに対して、またため息がこぼれ落ちた。
勘違いしているとはいえ、この人はそこまで私のことが嫌いなのかと段々切なくなってくる。
話を続けたら、きっともっと惨めな気持ちになってしまうことだろう。そんなの嫌だ。
「早く銀之助さんを病院に連れて行ってあげて。腰、とっても痛そうだったから」
環さんを見つめ返したまま、腕を掴んでいる彼の手に自分の手を重ね置く。
わずかに力を込めて、ピクリと反応した彼の大きな手を自分の腕から追いやった。
「お大事にしてください」
俯きがちに彼の横を通り過ぎるその瞬間、私は小さな声で「さようなら」と囁きかけた。