俺様外科医と偽装結婚いたします

つかめない胸の内


昼間起こった衝撃から抜け出せないまま、夜を迎えてしまった。

夜八時、閉店時間を迎えようとしている今、私はひとりで店の掃除中である。

手と止めると考えてしまうのは、よりによってなんで銀之助さんの孫があいつなのだろうかということ。なんだか神様に意地悪をされてしまった気分である。

しかし考え方によっては、手間が省けたと言っていいかもしれない。

銀之助さんから食事やお見合いの話を持ち掛けられたとしても、相手が私だと知れば、環さんは即座に断るはずである。

そうなれば、銀之助さんは私を孫のお嫁にという思いを諦めてくれるかもしれない。

「良かったじゃない」と自分に話しかけながら、レジ横に飾っておいた田北さんからもらったハーバリウムの位置を直していると、「さーくら!」と母が大きな紙袋を抱えて近づいてきた。


「見てみて。可愛いと思わない?」


近くの椅子に紙袋を置き、中から取り出した洋服を一枚一枚テーブルの上に並べ置いていく。

お洒落でシンプルな水色のワンピース、ブーケ柄のフレアスカート、白のブラウス、紺色のプリーツスカート、淡いピンク色のニット等々、どんどん出てくる可愛らしい洋服たちを戸惑いながら見つめていると、母が満足そうに笑った。


「咲良ちゃん、どれ着る? どれも似合いそうだけど……うーん。やっぱり無難にワンピースかしら」


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