俺様外科医と偽装結婚いたします
「私も若いころ、同じこと言ってた。けどね、結局祖父ちゃんと結婚した。血は争えないね」
それどころか、私の背中を叩いて、楽しそうにそんなことを言う。
叩かれた痛みと予期せぬ展開に涙目になりながら「一緒にしないで!」と叫ぶも、お祖母ちゃんは私の必死の訴えをさらりと聞き流し、レジの横にあるホワイトボードへと向かう。
そしてなにかを書き込み、振り返る。
「食事は明日の夜。ここに銀之助さんが迎えに来てくれるそうだよ」
『夜、六時』。ホワイトボードに書き込まれていた時間を目にし、気が遠くなる。
あいつのことだから、引き合わされる相手が私だと分かれば、絶対に拒否するだろうと思っていた。
それなのに、どうして話が進んでいるのだろうか。
あいつが、私だと知った上で了承したのなら、きっとなにか企んでいるに違いない。
そうではなく、知らないまま連れて来られたとしたら……食事会で罵詈雑言を浴びせられることになるだろう。
どっちも、嫌!
「どんな髪型が、より可愛いかしら」
「頑張れよ! 姉ちゃんなら、きっと大丈夫だから!」
「私は訪問着が良いかね」
早速、母は私の髪型について悩み出し、陸翔はなんの根拠もなく私を励まし、祖母は珍しくそわそわしている。