俺様外科医と偽装結婚いたします
男性と目と目が合ってしまったのだ。
冷ややかな眼差しに射貫かれて、心が凍りつく。
身体が萎縮してしまいそうになるも、立ち止まったら駄目だと本能が感じ取る。
このまま走り続けた方がいい。ヤバい人かもしれない。逃げなくちゃ……。
しかし男性を追い抜かし数秒後、後ろから腕を掴まれた。
「……きゃっ!」
突然の出来事に驚きと恐怖で悲鳴をあげつつ、慌てて後ろを振り返り見る。
自分を掴んでいるのは、やはりあの男性だった。
気持ち悪さが爆発し、掴んでいるその手を必死に振り払おうとすると、なぜか彼に腕を捻り上げられてしまった。
「いっ、痛いっっ! ちょっと痛いってば! なにするのよ、変態!」
最後の叫びは、黙れとばかりにさらに力を加えられたことで苦痛の声に変わり、私の口から出て行った。
男にコードを引っ張られ、耳からポロリとイヤフォンが落ちていく。
「お前、いい加減にしろよ」
聞こえた低い声音に、背筋が寒くなる。怒りと嫌悪感の込められたひどく冷たい声だった。
「毎回毎回、俺に付きまといやがって。ストーカー!」
鋭く突き付けられた単語に、目の前がほんの一瞬真っ白になった。