俺様外科医と偽装結婚いたします
憂鬱さで項垂れかけるも、私は待てよと思い直した。
あいつが嫌味を口にするなら、私も反抗的な態度をとりやすくなる。
そうなれば銀之助さんもお祖母ちゃんも、こんな調子のふたりが上手くまとまるわけがないと気づき、諦めることだろう。
銀之助さんを気落ちさせてしまうことは心苦しく感じるけれど、いつまでも叶うことない期待を持たせているよりずっと良いだろう。
「……――は、どうですか?」
銀之助さんに話しかけられ、私はハッとする。
返事を待つ眼差しを助手席から向けられ戸惑っていると、お祖母ちゃんが代わりに答えてくれた。
「大丈夫ですよ。この子はアレルギー持ちではありませんから。体の丈夫さだけが取り柄です」
言い終えたあと、お祖母ちゃんからトンッと肩をぶつけられた。そして、ぼんやりするなとばかりに、じろりと視線を突き刺してきた。
今回の縁談話に関して、お祖母ちゃんを諦めさせることが一番大変かもしれないと薄っすら感じ、私は口角を引きつらせた。
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十五分ほどで車は日本料理店の前に到着し、再び運転手の男性がドアを開けてくれた。
私は先に車から降りて、艶のある黒色の板塀へと歩を進めながら、その向こうに佇む純和風の立派な建物をそっと見上げる。