俺様外科医と偽装結婚いたします
店内に入るとすぐに、待ち構えていた店員数人から「いらっしゃいませ」と折り目正しく頭をさげられた。
つい足を止めそうになってしまった私やお祖母ちゃんとは違い、銀之助さんは優雅なほほ笑みで応えながらも、女将さんに先導されるままに、歩調を乱さず進んでいく。
テーブル席もお座敷席も、ほとんどが客で埋まっているのに、店内は落ち着いた空気で満たされている。
静かに語らいながら食事をしているお客の姿を横目で見ながら、艶やかな光沢を放つ大理石調の通路を行くと、目の前に三メートル四方ほどの広さの日本庭園が現れる。
敷き詰められた砂利の上に、岩に苔、灯篭や手水池などがバランスよく配置されていて、思わず見とれてしまう。
そこを過ぎると静寂が色濃くなり、個室だろう扉の前をいくつか通り過ぎたあと、大きな引き戸の所で、やっと女将さんの足が止まった。
「こちらです」
小さく音を立てつつ戸が開けられた。顔を向けると、小上がりの先にきっちりと閉じられているふすまが見え、緊張感が込み上げてくる。
「ありがとうございます」
やはり先に進んだのは銀之助さんだ。靴を脱ぎ、そしてふすまを開いた。