俺様外科医と偽装結婚いたします


「道路が混んでいたから、少し待たせてしまったね、環」


私が室内をちらりと覗き込むのと、ひとり席に着いていたあいつが弾かれたように顔を上げたのは、ほぼ同時だった。


「いえ。俺もついさっき到着したばかりですから」


言葉を返しながら慌てて立ち上がり、あいつが大きな歩幅で近づいてくる。


「初めまして。孫の久郷(くごう)環です」


彼はちらりと銀之助さんを見やってから、口元に笑みを添えて自己紹介し、最後にお祖母ちゃんに向かって軽く頭をさげた。

一連の行動を爽やかに、かつ紳士的な物腰で行った彼は、お祖母ちゃんの目に好青年に映ったのだろう。

「まぁまぁ、ご丁寧に」と感心しきった様子で、急いで和室の部屋へあがり、薄っすらと頬をピンク色に染めつつ彼の前へ進み出た。


「環さん、忙しいだろうに、時間を作ってくださってどうもありがとう。……それにしても、器量良しで、とっても素敵な方じゃないの。ねぇ、咲良」


お祖母ちゃんから、彼への賛辞に対する同意を求められたけれど、私は曖昧な笑いしか返せなかった。

そんな私の態度にお祖母ちゃんはほんの一瞬眉間にしわを寄せてみせたけれど、すぐさま場をつなぐように銀之助さんへと話しかけた。

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