俺様外科医と偽装結婚いたします
「本当に素敵なお孫さんね」
「確かに環は、良くできた孫ですね」
「羨ましいわ。……それに引き換え、うちの孫ときたらこれといった取り柄もなしで」
お祖母ちゃんはもごもごと自分の孫である私の文句を呟き、銀之助さんは「そんなことないですよ」と優しい否定の言葉を挟みながら、ふたりはテーブルへと進んでいく。
憂鬱なため息をこぼしながらそんなふたりを見つめていると、視界を遮るように、私の目の前に彼が立った。
「……えっと……確か、咲良さんでしたよね。遠慮せずに、どうぞこちらへ」
銀之助さん譲りの穏やかな口調で彼、環さんが私に声をかけてくる。
口元はほほ笑んでいるけれど、こちらを見下ろす目はやっぱり笑っていなくて、無意識に右足が半歩後退した。
「とりあえず、上がれ」
逃げ出したい。環さんはそんな私の気持ちを易々と見抜いたらしい。
その眼差しに鋭さを宿し、咎めるような響きを込めた声で囁きかけてくる。
「……はい」
私だって、ここに来れば彼と会うことになると十分理解していた。
それなのに、こうして向き合った途端、これからどうなるのだろうかと怖気づいてしまった自分が情けなくなっていく。