俺様外科医と偽装結婚いたします
ひとつ深呼吸を挟んでから、私は覚悟を決め、環さんと視線を通わせる。
「今日はお手柔らかに、よろしくお願います」
対して彼は口を開くことなく、しれっとした顔でただ私を見つめ返し、ほんの少し肩をすくめてみせた。
どんな言いがかりを用いて攻撃を仕掛けてきたとしても、今日は全力で全部打ち返してやる。
すべては、今回の話をなかったことにするために。
戦場に踏み込むような気持ちで環さんの横を通って和室へあがる。
そして、先に席に着いた銀之助さんへ「雰囲気のあるお店ですね」と明るく話しかけながら、テーブルの向かい側で落ち着きなく立っているお祖母ちゃんの傍まで一気に進む。
示し合わせたかのようにお祖母ちゃんと一緒に席に着くと、やや間を置いてから、私の目の間に環さんも腰を下ろす。
挑戦的にも感じられる眼差しで環さんからちらりと見られ、思わず私は膝の上でぎゅっと両の拳を握りしめた。
+ + +
「あぁっ。すごく美味しい」
運ばれてきた蟹づくしの御膳を堪能しつつ心の底からの感想を口にすると、お祖母ちゃんも「本当だね」と私の思いに同調する。
「そう言ってもらえて良かったです。」